お気に召すまま

舞台の記憶が鮮やかなうちに…

『それいゆ』

中山優馬主演のストレートプレイ、『それいゆ』を観劇してきました。

中原淳一をモデルにした「美しく生きること」がテーマの物語。

戦時中の何もかもが制限された時代で、戦後の流行に流され誰もが同じものを持つことに執着しだした時代で、迎合せずに、自分が信じる美しさをただひたすら追い求めた中原淳一

誰もが憧れるが、そう簡単に許される生き方ではなく、しようとしたところでそんな確固たる意志はないもので、、、ああ美しいなあ素敵だなあと思うと同時にいくらかの嫉妬すら覚えました。


そんな中原はもちろん、この作品のキャストは皆とてもキャラクターがしっかりしていて、それでいて、全員どこか憎めない人間味溢れる人たちでした。

何人かの人物に触れると、

中山優馬演じる中原は完璧な美しさを求め、周りに流されない意思の強さがあります。自分をしっかり持っていて、人にも自分にもとても厳しい人。だからこそとても孤独で、とても脆い人でした。

桜井日奈子演じる舞子はとても天真爛漫な女の子。だけど彼女の天真爛漫さは辛い現実に対してのカラ元気であり、彼女は彼女の生きる希望である中原の前では、中原の作品を見ている時にはそんな辛い現実を忘れられていたのに、中原から拒絶され、中原の作品を奪われ、ぐれてしまった。しかし、そんな現実を一度は受け入れても、最後には自分の意思を貫いた強さがありました。そんな強さは中原に似ていて、彼女は中原から多大な影響を受けていたんだと感じました。

JONTE演じる天沢は中原の1番の理解者でした。中原に間違っているという勇気を持ち、中原の美しさを見守っていた彼は最後まで中原に寄り添い、彼は中原にとってかけがえのない存在でした。最後に歌った「愛の讃歌」は本当に素晴らしく、見る人に感動と希望を与えました。

辰巳雄大演じる桜木は中原の1番近い存在なようで1番遠い存在。考え方の根本が違うような気はします。だけど、お互いにお互いの腕を認めていて、桜木は中原をすっごく尊敬しているんだということは伝わってきました。とってもじれったい中原と桜木でした。

佐戸井けん太演じる編集長はとてもイライラさせる役どころではあるんですが、彼は彼自身の持つ醜さをしっかり表に出していて、それがいいことなのかは置いておいても、彼の中原への嫉妬は、汚いと思いながらも誰しも、もちろん自分の中にも存在するのではないかと考えさせられました。あれだけしっかり自分の思いをぶつけ、決してその嫉妬を隠したりしないのはかえってとても潔く思えました。

最後は金井勇太演じる五味。彼は本当に不器用な男でした。人の偽物を商売にしたり、人を見世物にしたり、そういうずるいことでしか生きていけない男だったけれど、舞子のことを大切にしていたと思うし、彼の言うことは一理ありました。不器用な彼はとても可愛らしく、人間味に溢れる愛情いっぱいな男でした。

そんな登場人物がどの人を取ってもとても魅力的でした。演技に不安の残る演者も中にはいましたが、ベテランのみなさんのフォローもあり、全体としてはしっかりとまとまっていました。


美しさとは主観的なもので、人それぞれ違うものです。だから、中原が最期に完成させた完璧な造形美は「あなたにはこれがどんな色に見えますか?」「あなたにはこれがどんな形に見えます?」と観客に委ねるものになっていました。

この舞台は舞台美術もとても細かく丁寧で、特に衣装は、戦時中の国民服は裾があげられているのですが、長さが左右で違っていたり外からも縫い目が確認できる感じだったり、とても細かいところまで配慮されていました。

明と暗がはっきりと区別された場面転換はとてもわかりやすく、シンプルな中にもたくさんの細工が施されていて、とても楽しめました。

ストレートプレイでしたが、そこまで重くもなく、だけどしっかりとしたメッセージ性のある今作はとても「ちょうど良い」舞台でした。

たくさんのひまわりと共に、会場の溢れんばかりの拍手に包まれてカーテンコールに立つ演者の顔はとても誇らしく、「上むいて、胸張って、前!」という中原の言葉を体現しているようで、とても美しかったです。